これぞ自作エッチングの決定打!!だと思う
オリジナルエッチングパーツ製作法『F式』
〜新・導入編〜
◎新方式の概略
もうちょっと前置き的な話を。
これから説明する、私が『F式』と名づけた方式は、正確には”熱転写方式”と言います。大本になる技法を探求したのは、bitメカ工房と言うサイトの管理人の方。私がここで説明するのは、元々電子工作で使われていたものを、模型用エッチングパーツ製作に応用したものであります。
まるきり自分の発明ではありませんが、それを模型用にフォーマット修正して公開した、と言う事で、私のハンドルネームに由来する名称を付けた事を、ここにお断りさせていただきます。
で、その”熱転写方式”なるもの、簡単に言うと、レーザプリンタ又はコピー機のトナー定着の原理をそっくり応用した方式です。レーザプリンタやコピー機から出てきた紙が異様に熱くなっているのを体験した方も居られる事と思いますが、あれ、熱を使ってトナーを紙に定着させているんですね(因みに、紙に印刷内容を”写す”のにレーザーなどの光源を使っているので、
”レーザプリンタ”なる名称が付いています。詳細はこちらを参照)。その原理を応用して、パターンを紙に印刷して、そのトナーを金属板にアイロンで写して、そっくりそのままレジストとしてしまう…と言う事。
ここで、F式の手順を簡単に説明しましょう。
- まず、パソコンでパーツを作画する。
- 作画したパーツを、レーザプリンタで印刷する。
- ラミネータで、印刷物(のトナー)を金属板に貼り付ける。
- 紙をふやかして取り除き、トナーのみを金属板に残してレジストとする。
- レジストの付いた金属板を、腐食させる。
- 不要部分が溶け切ったら、レジストを除去して完成。
ご覧のように、従来の方式に存在した「露光」「現像」の工程がありません。それに伴い、必須の存在であった「OHP用紙」「露光機」「現像剤」とこれらに関係する道具が不要になりました。
…まあ、原理はじつに簡単ですが、しかしこれはまさしく盲点を見事に突いたアイディア。ここに至った発想は天晴れ、の一言。求めよ、さらば与えられん。これを最初に発明した人は英雄です。
前置きはこの位にして、早速本題に入りましょう。まずは必要なものの説明から。
◎必要なもの
以下にあげる物が、F式に必要な道具、素材一式です。一部、旧方式の方でも説明しているものもあります。
- パソコンとソフトウェア
まあ、これで原稿を作成するワケですが、パソコンはともかく、使うソフトウェアは、
ドロー系グラフィックソフト、またはCADソフトを推奨します。ペイント系も使えない事は無いとの報告を受けていますが、ただこれだと、模型のスケールも関係してくると思いますが、小さいパーツや細かいパーツ、複雑なパーツの製作が出来ないし、シャープなパーツの製作も覚束ないです。これらソフトを買うとなると、物にもよるが、CADやドロー系のソフトは高いのが多いので、旧方式の解説でも触れてますが、フリーウェアの使用をオススメします。
フリーCAD、と言うとJW-CADと言うのが最も有名、かつ最も広く使われていますが、私はLilliCadと言うソフトを愛用しております。
- レーザープリンタ
これがF式では最も重要な道具で、最も高価な道具です。家庭用プリンタとして普及しているインクジェットプリンタとは異なり、カーボントナーを使って印刷するプリンタです。
レーザープリンタってのは、一般に流通しているプリンタでも高いほうですが(トナーカートリッジも普通に買うと高い)、家庭用のモデルなら、安い物で¥30000位で(もっと安い??)購入出来ると思います。また、最近では、実売価格で¥20000を切るカラーレーザープリンタもあったりします。現在私が使っているのは、NECの”MultiWriter
5750C”と言うカラーレーザープリンタです。カラーで印刷できるうえにインクが耐水性なので、エッチングだけでなく、デカールの作成にも使えます。傾向としては、カラーレーザーよりモノクロレーザーのほうが、若干トナーの強度(特に転写時の紙の除去)があるみたいです。
- ラミネーター
書類や写真などを、保護のために透明フィルムに挟む処理(ラミネート処理)を行う機械です。ラミネート処理は、高熱と圧力とで行われますが、実はこれが金属板へのトナー転写にも絶大な威力を発揮します。価格も、A4サイズ対応で大体\4000〜5000台でかなり手ごろです。均一に熱と圧力が加わるために、アイロンを使った場合よりも転写の歩留まりが格段に向上するだけでなく、転写後の紙の除去もすんなり綺麗に行えるようになるので、ラミネーターの使用を必須とします。
ラミネータ購入の際のポイントとしては、温度調節が可能な機種を選択する、と言うこと。自動調節機種での転写結果は(今のところは)無いので何とも言えませんが、温調出来ないところに持ってきて、転写がまったく出来ないと言うのも予算がもったいないので、ここは確実を期して温調可能な機種を推奨、としておきます。また、言うまでもない事ですが、”金属へのトナー転写”と言うのは、ラミネーター本来の使用から逸脱したものなので、実行は各自の責任でお願いいたします。
ちなみに、私が使用しているナカバヤシの”PLB-R2A4W”は8段階での温調が可能で、最高温度は145℃となっています。他、アイリスオーヤマの”LTA421N”も転写可能と報告を受けています。
- ライトボックス
卓面を光らせて、絵を透かせて見られるようにしたり、フィルムを確認し易くする、と言うアイテムです。原稿の表裏合わせに力を発揮します。これは別に無くとも構わないのですが、これが有るのと無いのとでは、エッチングパーツ作成の成功率が大幅に違ってきます。まともに買うと\10000を軽く超える高い機材ですが、写真のモデルの、ケンコー(ケンコー光学)と言うメーカーの『HK150』は、サイズが小さいものの、電池式なので、大体\4000で買えてしまう値段です。
- サーモヒーター
腐食液液(塩化第二鉄液(二鉄))を40℃に保つために使用します。私が使っているのは、サンハヤトの専用のもの(¥8000位)。これは別に無くとも構いませんが、二鉄は暖めて使った方が作業が早いです。専用のサーモヒーターでなくても、カップウォーマーなどの器具や、湯煎で暖めて使うのもOKです。塩素ガス発生の危険性があるので、絶対に直火で暖めてはいけません。
- 容器
二鉄を入れる非金属製の容器、パーツを洗う容器(2つほど)が必要。重ねて言いますが、二鉄を入れる容器は、金属製でないものを使う事!!もう一つ付け加えると、暖める場合は耐熱性の容器を使うこと。ベストなのは、実験器具などの耐熱ガラスの容器(ビーカーなど)ですが、耐熱性のある調理用の道具でもOKです。
- 消しゴム
普通の消しゴム。きれいな仕上がりを望むには欠かせないものです。どこで使うか、それは後の解説で。
- 細目の耐水ペーパー
金属板表面の脱脂と酸化膜の除去に使用。モデラーなら、タミヤのフィニッシングペーパーとかを使っているだろうから、それを使えば良いだけの話。目は#400〜#1000程度。細かいスチールウールでも良いのですが、細かい繊維クズが出るのが鬱陶しいので使いません。
- 他、あると便利な物
温度計(液温を計る)、ピンセットなどのつまむもの(二鉄に漬けるので、非金属製のもの)、筆(エッチング工程で使用。金具を使っていない書道用のが良いかも)、かき混ぜる棒(腐食液をかき回す非金属製の棒)、等々。備えあれば憂い無し、必要と思えるものは手元に置いておきましょう。でもまあ、何があると便利かとかってのは、何度か試してみない事にはなかなか分からないと思いますけど。
プリンタ、サーモヒーターの値段はともかくとしても、それ以外は取り立てて高価なものはありませんが、とは言え、社会人でも、ボーナス時でも無い限り、一気揃えは確かにキツイですね。
とりあえず、必須のものは、
- レーザプリンタorコピー機
- ラミネータ
- ライトボックス
この3つ。プリンタorコピー機については、もし、近くに印刷用紙の持込が出来るコピー機があれば、それを使っても構わない…と言いたい所ですが、それだとイマイチ手軽さに劣って…。と言うか、確実な作業が望めません(余計なコストもかかる(笑))。コンビニのコピー機で実際にトライしていないので確実な事は言えませんが、確実を期して、現時点ではコンビニのコピー機の使用は非推奨とします。
でもね、賀状の宛名印刷は、水分に弱いインクジェットプリンタの印刷よりもレーザプリンタの方がキレイなんだぞ。私も賀状の宛名印刷はレーザプリンタだぞ。書類の印刷も、インクジェットはとてもじゃないが、かったるくてやってらんないぞ。もし家族を説得する必要が生じた場合、このポイントを有効に活用しましょう(笑)。
道具に続いて、必要な素材を以下に説明します。
- 紙
一口に”紙”と言っても、何でも良いワケではありません(ただし、本道の基板製作のほうでは、普通のコピー用紙での成功例も報告されています)。F式では、全てをこれが決すると言っても過言でない最重要素材なんであります。
…で、F式で推奨するのは、
・インクジェットプリンタ用紙 スタンダードタイプ スーパーファイングレード(コクヨ製)
・画彩(かっさい) お手軽マットタイプ マット仕上げファイングレード(フジフィルム製)
この2つ。これ以外でも、インクジェット用紙で、パッケージ裏面の”プリンタモード設定”の欄に「スーパーファイン」とか「コート紙」とかが書いてあればまず大丈夫、だと思います。お値段は…まあ、普通のコピー用紙に比べると確かに値は張りますが、A4サイズ100枚入りでも、大体¥500〜600円と言った所。B5サイズだともっと安いです。
- 金属板
これが無きゃ始まらない(笑)。銅、洋白、真鍮、ステンレスなど、板厚は0.1mm厚が標準的。F式では、ケースバイケースで素材を使い分けられるのも利点だったりします。ただ、唯一お勧めできないのはアルミニウム。何故かと言うと、これは腐食液に激しく反応し過ぎるため、危険が伴うからです(二鉄の温度が急激に上昇して、炎も生じるとかなんとか)。
あと、市販のエッチングパーツは、ステンレス製のものも一般的ですが、まあ、個人の好みもありますけど、概してステンレスってのは模型用としては硬すぎるし、それにハンダ付けも意外と厄介(専用のフラックスが必要)なので、”自作”と言うスタンスにおいては、あまりオススメしません。
- 腐食液(塩化第二鉄液、略して二鉄)
ここでのお勧めは、処理剤が付いてくるサンハヤト製のもの。二鉄は使うごとに劣化して、反応が鈍くなります。いよいよ使えなくなったら処分する事になるのですが、このとき、無責任な処理は絶対にしないように!!
処理に関連して、美術専門店に行けば、腐食液中和剤として、重曹と消石灰を置いている所もあります。店先に無くとも、二鉄が置いてあるなら…と言うか、殆ど全ての美術洋品店で取り寄せは可能だと思いますので、店員さんに確認しましょう。
腐食液の処理については、こちらを参照のこと。
- クエン酸と精製水
洗剤として、最近ではこれも¥100均ショップに置かれるようになった薬品ですが、これは腐食作業時に使用します。そしてF式において必須の素材とします。その理由と使い方については決戦篇にて。精製水は薬局で安く買えるコンタクト洗浄用で充分です。
- 重曹(炭酸水素ナトリウム)
二鉄を中和する弱アルカリ性の薬品。腐食作業を終了した金属板を洗う際に、また、作業終了後、二鉄が溶けた洗い水を中和処理する時に使用します。お菓子作りに使用するベーキングパウダーにも含まれているので、基本的に人体には無害です(※独特の苦味と臭気がある)。実は¥100均ショップに、台所用洗剤として置いてあることもあったりするので、よく探してみましょう。
- マスキングテープまたはレジストペンまたは液体グランド、または油性マジック、マスキングゾル、etc.
腐食させたくない非転写部分(例えば枠部分など)、転写の際に生じたベタ部分の欠けの補修に使用。レジストペンは、これもサンハヤトから出ている、防食性のインクが入ったペンです。グランドは、銅版画の製版に使われる防食剤の事で、リグロインと言う専用の溶剤が必要になります(水性グランドも有ります)。グランドを使った事はないのですが、銅版画用の素材を扱っている美術専門店なら、二鉄同様、これもリグロイン共々普通に置いてあるはずだし取り寄せも可能なはず。
実は油性マジックも立派なレジストとして使用可能だったりします。油性なら大抵は大丈夫だと思ういますが、事前に試してみて使えるかを確認してください。こちらで使用可能であることを確認したのは、ゼブラの「マッキー極細」。インキがトナーを溶かすこともあるので、レジストペンやマジックを使う場合は注意すること。
あと、マスキングゾルも使用可能です。実効性を確認しているのは、クレオスのマスキングゾルNEOとハセガワのマスキングゾルですが、他のマスキングゾルも使用可能だと思います。使うさいに事前にテストしてみて確かめてください。
マスキングテープも充分使えます。セロハンテープも大丈夫。これら以外にも、レジストとして使えそうなものがあるかもしれません。ここに挙げたもの以外でも、使えそうだと思うのがあったら、あれこれ試してみて、当方まで教えてくれると非常に有難いです。
- ラッカー系溶剤
腐食完了後、残ったレジスト(トナー)の除去に使います。例えばラッカー系の薄め液、ツールクリーナーやペイントリムーバー、等々。これらもモデラーなら普通に持っているもの。アクリル、エナメル溶剤は使えません。
以上が、パーツとなる材料です。これらは一つたりとも欠かす事が出来ないので注意。
これら道具、素材からどうやってオリジナルのエッチングパーツを作るのか、次からいよいよその解説に入ります…。
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