前章でも触れましたが、ホントにド単純、簡単も良い所。なんせ、残りの工程が
腐食→レジスト除去
こんだけです。旧方式では、レジスト除去でもう一騒ぎありましたが、F式にはそれがありません。まあ、詳細は以下の説明をご覧あれ。
・腐食
腐食液(美術方面では”エッチャント”と言います)でレジストを転写した金属板を腐食して、パーツを取り出します。ポイントは、
この”クエン酸を混ぜる”と言うのが極めて重要で、クエン酸を混ぜておくと、腐食時に生じるカス(黒っぽい澱み。正体は水酸化銅)が生じないので腐食が阻害されずに正確で綺麗な腐食が行え、なおかつ、腐食のスピードも速い(普通の二鉄の半分くらいの時間で出来てしまう)と言う利点が生じます。この、クエン酸を添加した二鉄は”エジンバラエッチ液”と呼ばれています(ここでは、以下”エジンバラ液”と呼称します)。美術方面ではかなり前から行われているテクニックです。詳細や液の作り方は、こちらを参照してください。素材説明のところで「F式においてはクエン酸を必須の素材とする」と書きましたが、それは正に、”正確な腐食”と”腐食スピードが速い”と言う、模型用パーツの作成としても、非常に効果のある利点があるからです。
これは美術方面以外では全くと言って良いほど言及されないことですが、普通の二鉄は、原液そのままの濃度でなく、一定の割合で希釈したほうが腐食の効率が上がるそうです。濃度については使用する金属により違って来ますが、薄めると効果が弱くなると思いきや、そのようなことは無いみたいです。また、これも最近知ったことなのですが、腐食時は液を空気に触れさせるのが良いみたいです(根拠はこちら。液なのか腐食対象なのかイマイチ良く分かりませんが)。と言う事は、一度に大量の液を使ってどっぷりと浸さなくても良い、と言うことですね。
閑話休題。私のエジンバラ液の作成手順ですが、クエン酸を精製水に適当に(濃い目に作る)溶かしたものを適当に二鉄に混ぜ込むという、非常にアバウトなやりかたで液を作ってます(笑)。まあ、こんなんでも効果はキチンと出てくれるのですが。みんなは先のリンクにある作り方にしたがって作りましょう。
※エジンバラ液の作成例:75mlの精製水にクエン酸25gを溶かしたクエン酸溶液を、400mlの二鉄に混ぜる。塩素などの不純物が混じっている水道水は使用を避けたほうが良いでしょう。
因みに、銅合金(真鍮、洋白など)をエジンバラ液で溶かすと、若干ながらカスが生じるようですが、影響はありません。作成したエジンバラ液は、元の二鉄とは別に保管しておきます。従来の二鉄も併用したい場合は、腐食用の容器も別にしたほうが良いでしょう。
容器にエジンバラ液を注ぎ、液温を上げていきます。液量は、金属板が浸るくらいで充分です。前述のように、エジンバラ液は性能が良いうえに効率よく腐食が進められるので、必要な量は左の写真くらいで済みます。ここに金属板を投入するのですが、腐食は、しゃぶしゃぶみたいに、金属板を静かに振ったり表裏をひっくり返したりしながら
行っていきます。
腐食が進み、金属板の隅っこやパーツの外形沿いに穴が開いてきたら(左側の写真。左上に穴が開いてる)、腐食も最終局面です。注意しながら金属板を液中で振って、腐食を進めていきます。
腐食は、パーツの周囲が完全に溶け切らない状態(右側の写真。バリみたいに金属が残っている状態)でもOKですが、エジンバラ液を使っている場合は、細かい部分もきれいに溶かしてくれるので、バリを完全に溶かし切ってしまうほうが良いでしょう。
確証はないけど、トナーは、ある程度二鉄につけると脆くなるようです…まあ、弱いとは言えど、酸につけるんだからそれもありうる事でしょうね。腐食が進んだ段階では、動かしたりひっくり返したりで金属板を扱う際は、トナー部分をうっかり引っかかない様に気をつけましょう。
腐食し終えたパーツは、速やかに重曹を溶かした水で洗って良く乾かします。
腐食が完了したなら、残るはレジスト除去だけです。
・レジスト除去
…で、そのレジスト除去なんですが、方法は、ラッカー系溶剤やツールクリーナーにつけて、筆とかでこすります。
これだけ。
…ほんとにこれだけ。「暖めた現像液に浸して、辛抱強くレジストを溶かす」旧方式のあの苦労が無いんですよ、F式には。
…と言うことで、真に呆気無く、これにて全工程終了と相成ります。出来たパーツは煮るなり焼くなりご自由に。 写真の一番左側はレジスト除去直後の状態で、ここから表面にヤスリをかけてきれいに磨いたのが、その右側の写真です。
写真のテストパーツは、ダイアゴナル(斜め線)の太さは実測で約0.2mmですが、普通の二鉄での腐食だと、いくばくか細く仕上がってしまいます。エジンバラ液を使うと腐食時間が短くて済み、サイドエッチングが起きにくくなるため、ここからも”正確な腐食が可能”と言うのが実感できます。因みに、磨く際に、ダイアゴナルの側面にもヤスリを当てた(小さく切った耐水ペーパーをピンセットでつまんでヤスリがけ)のですが、ボロボロにならずしっかりとヤスリを当てられました。また、ここでは例を挙げませんでしたが、エジンバラ液は、場合によっては、板の厚さと同じ細い線の腐食も可能になります。0.1mm厚の板なら、0.1mmの太さの線が作れると言うことです。
他、エジンバラ液の使用による利点に、レジスト部分の表面の”荒れ”が生じにくくなる、と言う事が有ります。これも腐食時間が短くなるからこそですが、このため、折角作った細いパターンがボロボロになったりすることもなくなりますし、作成したパーツの表面処理の手間もいくぶん軽くなります。
エッチング作業終了時には、パーツ洗いに使った水を処理します(そのまま下水に流してはいけない!!)。方法は、洗い水に重曹を少しづつ加えていくだけです(タミヤやクレオスの調色スティックが結構便利)。泡が出るので、これが収まったところでまた重曹を加え…を繰り返し、重曹を入れても泡が出なくなったところで処理完了となります。あとの詳細はこちらを参照してください。
以上が”F式”の全工程です。まあ、二鉄の処理法方とか面倒な事もあったりしますが、手軽と言う事は充分に実感して頂ける事と思います。
最後に、作業全体のポイントのまとめを。
旧方式もそうでしたが、いくら自分でエッチングパーツを作れる、と言っても、それは手作業で行う悲しさ、精度の点においては市販のパーツに敵うべくも無いし、あまり複雑なパーツの製作も得意ではありません。だがしかし、F式はとにかく費用対効果に優れた方式である事を強調しておきたいです。初期投資はともかくとしても、市販パーツを買う場合と比べると、キット一つあたりの製作コストを非常に低く押さえられるし、何より、本当に自分が欲しいパーツだけを手に入れられる、ってのが非常に大きいと思います。
そして、全てを自分で作るんです。完成した時の達成感もハンパじゃないと思います。
F式の解説はこれにて終了。あとはひたすら実践して、ぜひともモノにして頂きたいです。
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